箱根駅伝には大学同士の順位争いに加え、もう一つの競争がある。
シューズ着用率を巡るスポーツメーカーの戦いだ。
厚底シューズの登場により、2020年ごろからメーカーの勢力図が一変した。
先駆的に取り組んできたメーカーがシェアを伸ばす一方、あるメーカーは「一人負け」で解体的出直しを迫られた。
◇箱根出場210選手中、わずか1人
厚底シューズを巡る競争は、苛烈を極めている。
メディア露出量を広告費用に換算すると数十億円とされる箱根駅伝は、国内屈指のメガスポーツイベントだ。
選手が着用するシューズの広告価値は高く、各メーカーが資金と人材を投入する。
箱根駅伝のシューズ着用率は「厚底元年」とされた20年から1、2年はナイキ1強だった。
スポーツ用品を販売するアルペンの集計によると、24年に変動の兆しがあり、25年にはナイキが23・3%と大幅に減少し、アディダスが36・2%でトップ、アシックスが25・7%で2位に続いた。
対照的に、苦境が続いているのが国内大手のミズノだ。10年ほど前までシューズ着用率トップを誇っていたが、厚底シューズの開発に出遅れた。
「厚底元年」から約2年後の22年度、厚底シューズの競争に本格参入した。シューズ中央部分に厚みを持たせ、かかとがない独特の構造で注目を集めた。しかし、奇抜すぎたことで敬遠され、シェアが伸びなかった。
25年の箱根駅伝では、衝撃的な数字が出た。
「1」
自社のシューズを着用した選手は、出場した全210人のうち、わずか1人だった。
同社関係者は「箱根ではミズノが『一人負け』の状態だった」と明かす。
流れを変えるため、大きな変更を決断した。
ミズノのシューズといえば、「ウエーブ」シリーズがおなじみだ。陸上だけでなく、バレーボールや卓球でも、この名を冠したシューズが定番になっている。
しかし、陸上において「ウエーブ」シリーズは苦戦を強いられてきたため、新たな商品名から「ウエーブ」を外した。
開発を担当するパフォーマンスランニング企画課の須藤真吾さん(33)は経緯をこう振り返る。
「新商品についても『ウエーブシリーズの続編とすればいいのでは』という話も出ましたが、駅伝で結果が出なかったイメージを払拭(ふっしょく)する必要がある。不振だったシリーズの名前のままだと、購買意欲をそいでしまう可能性もありました」
箱根駅伝のちょうど1カ月前、ミズノが25年12月2日に発表した新商品は、「ハイパーワープ」と名付けられた。
須藤さんは「まるで時空を瞬間移動するような速さで、レーシングシューズのシーンを変えたい」と思いを語る。
開発にあたっては、競技現場での声により耳を傾けることにした。特に注文を受けるのはシューズの履きやすさだという。
シューズの上部は軽量素材を配し、足の甲を優しく包む。軽さと安定感を追求した。
技術の粋を集めた一方で、須藤さんはデザインを含めて「ブランドのエゴを出さずに、(選手たちが)純粋に求めているものを開発に取り入れた」と強調する。
しかし、ミズノの再浮上への道は簡単ではない。
当初、ハイパーワープは26年の箱根駅伝での着用者の目標を10人に設定したが、各校の状況を精査すると、1桁にとどまる可能性が高いという。
須藤さんは「(12月初旬という)新商品発表のタイミングが遅かったのか、販促活動が足りなかったのか。しっかり分析して、次回(27年)大会への糧としたい」と須藤さんは語る。
明るい兆しも見えてきた。
25年12月21日の全国高校駅伝でミズノのシューズを履いた男子選手は、同社調べで前回24年大会の3人(シェア0・7%)から20人(同4・9%)に増加した。
いずれ大学駅伝、実業団駅伝で活躍する選手も多くいる。須藤さんは高校生への人気が回復しつつあることに好感触を得る。
「ここ数年でシェアを大きく失ったことで高校生との関係性は薄れ、大学、実業団に進んでもつながりが生まれなくなっていました。高校生へのアピールに力を入れていくべきだと考えています」
シェアの回復を目指し、挑戦は続く。【岩壁峻】
<駅伝365>駅伝厚底シューズ競争で「一人負け」 ミズノ、起死回生の一手は…
引用元:毎日新聞


