2026年の「東京箱根間往復大学駅伝競走」で東洋大は総合14位に終わり、シード権獲得(10位以内)の連続記録が20年で途絶えた。「鉄紺」のたすきをつなぐ総合優勝4回の伝統校が直面した厳しい現実を受け止め、新チームは今季、21年ぶりに予選会から箱根路を目指す。
後編でも、時事通信のインタビューに応じ、もう一度「強い鉄紺」を築き上げる決意を示した酒井俊幸監督(50)の生の言葉を伝える。(時事通信運動部 青木貴紀)
◆ 伝統のチームスピリッツ
東洋大伝統のチームスピリッツ「その1秒をけずりだせ」は、11年の箱根駅伝で早大にわずか21秒、約100メートルの差で敗れ、総合3連覇を逃した悔しさから生まれた。当時アンカーを務め、今年2月に現役を引退した山本憲二さんが今春、母校のコーチに就任。練習で学生と共に走りながら、その言葉の重みを伝えている。
復権に向けて、大切にしている三つの理念がある。「礼を正し、場を清め、時を守る」「凡事(ぼんじ)徹底」「怯(ひる)まず前へ」。新型コロナウイルス禍の折には寮の一時閉鎖もあり、かつての東洋大に当たり前に根付いていた教育文化や精神は少しずつ薄れ、ほころびが見られるようになっていた。酒井監督も部員と一緒に寮を清掃するなど、生活面から徹底して再構築している。
「普段の生活が乱れている選手は、本番で自分を整えることはできず、力を発揮できない。周りとコミュニケーションが取れてあいさつができる。きれいに頭の中が整理できていて身の回りも整理整頓する。時間を守る。当たり前のことをどれだけしっかりやれるか。強い選手ほど当たり前の基準が高い。パフォーマンスを上げたいのであれば、練習、ケア、フィジカル、栄養の『四本柱』のレベルを上げていかないといけない。そして、選考に漏れるなどうまくいかないときも下を向かず、前を向いてまた一歩を踏み出す。レースでは果敢に攻めの走りをしていく」
◆2年ぶり全日本切符
妻の瑞穂さんがコーチを務め、世界に視線を向けて競技している日本トップレベルの競歩の学生も、長距離と同じ環境で活動。暑熱対策や給水など競歩界の知見も取り入れて、「シンカ」に結び付けている。
地道な日々の積み重ねにより、少しずつポジティブな変化が表れてきた。4年生は早朝から朝練の準備を丁寧に行うなど背中で引っ張り、着実に力をつけている。今年5月の全日本大学駅伝の関東地区選考会では5位に入り、2年ぶりに本戦切符を獲得。2組では松井海斗がトップの快走を見せた。
「出場権を得て、また挑戦できることはチームとしてプラス。学生たちにとっても一つの成長になる。ただ、目標はトップ通過だった。本戦でシードを取るためには、いろんな課題が見えてきた」
◆問われる「本番力」
夏場は昨年よりも合宿の日数を増やし、強靱(きょうじん)な足腰と心肺機能を鍛え、勝負の秋に備える。東洋大が21年ぶりに挑む箱根駅伝予選会は10月17日に行われる。09年春に就任した酒井監督にとっては初めての舞台だ。学生時代に選手として走った経験はあるが、「当時とはレベルが全然違う」と気を引き締める。
独特の緊張感に包まれる中、ハーフマラソン(21.0975キロ)を走り、各校上位10人の合計タイムで争う。ラスト3キロの走りがカギを握るとみる。「最低限は出場権を取ることだが、やっぱりトップ通過を目標にしていかないといけない。情報を得ながら、どれだけ冷静に走れるか。暑さ対策も必要。本当に『本番力』が問われる」
◆「1秒」の重み胸に
東洋大は日本学生界を代表するエースが黄金期を支えてきた。「新・山の神」と呼ばれた柏原竜二、双子の設楽啓太と悠太(西鉄)、21年東京五輪マラソン代表の服部勇馬(トヨタ自動車)、同五輪1万メートル代表の相沢晃(旭化成)ら世界へ羽ばたく選手を輩出してきた。そうした中で酒井監督は松井の名を挙げ、「エースになってほしいし、ワンランク上を目指さなきゃいけない。3年生は他にも中心になっていきそうな選手がそろっている。(私が)彼らを導いていかなければならない」と熱意を込めて語る。
箱根駅伝予選会の2週間後に行われる全日本大学駅伝は、ハードな日程の中でも「シード権獲得」を目指す。そして、真価が問われる27年1月の箱根駅伝へ。
「前回は実力を発揮できないまま終わってしまったので、本当に鉄紺らしい粘り強い走り、期待の持てる走りをしたい。これまでにない岐路だと思っている。こういう時こそ、怯まず前へ」
逆境は飛躍の契機となる。チーム全員が日々の生活、練習から「1秒」の重みを胸に刻み、結束してひたむきに努力を積み重ねる。その先に、鉄紺のたすきが再び箱根路で輝く日が訪れる。
21年ぶり箱根駅伝予選会に向け「怯まず前へ」◆東洋大の酒井俊幸監督が描く復権への道(後編)
引用元:時事通信


