新谷仁美に聞いた「マラソンに挑戦する気はありますか?」

新谷仁美に聞いた「マラソンに挑戦する気はありますか?」

新谷仁美(東京五輪 女子長距離代表候補、32歳)インタビュー#4

 日本実業団陸上競技連合は、東京五輪のマラソンで日の丸を揚げることを願い、マラソンの日本記録に1億円のボーナスを出す制度(今年3月終了)を設け、設楽悠太、大迫傑が手にして話題を呼んだ。プロランナーの新谷は、この制度をどう見ていたのか。

  ◇  ◇  ◇

 ――マラソンの1億円ボーナスについてはどのように見ていましたか。

「羨ましかったですね。休日に服を見に行くのが好きですが、服を買うのも、家を買うのも、生きていくにもお金は必要です。単純にお金のことだけを考えれば、マラソンに行きたいと思いましたね。マラソンに懸けていくというのもひとつの手ですが、トラック種目に比べて駅伝やマラソンの魅力を伝える人はたくさんいます。私は企業やスポンサーの方と話が合致したので、トラックの長距離選手として発信していきたいです」

 ――でも、日本のトラック種目はマラソンに比べてメジャーではない。国際大会で結果も出ていませんね。

「そこも変えていかなければなりません。私の中で思っていることは、偉そうに言うなら結果を出せ、ということです。偉そうに言うつもりはありませんが、結果を出してこそ、話を聞いてくれる人は多くなる。だから、私には結果が必要なんです。マラソンではなく、トラックの長距離でタイトルを取りたい。タイトルを取った上で、マラソンに転向するのか、短距離に行くのか、今はわかりませんが、そのように考えています」

 ――新谷さんの言うタイトルとは、五輪や世界陸上でのメダルですか。

「そうですね。日本記録も入っていますが、みなさんにストレートに伝えられるのは、世界での結果だと思います。そこに照準を合わせていかないとやっていけません。好きだから続けていくという精神はありませんから。ハングリー精神を持ってしっかり戦っていかないと」

■走る距離と緊張度が違う

 ――マラソンで1億円を手にした設楽選手に、2度も日本記録を出して2億円をもらった大迫選手も、5000メートルや1万メートルで五輪や世界陸上に出場しています。新谷さんにも、マラソンにも挑戦して欲しいという声があります。第1回東京マラソンにも優勝していますし。

「昔は嫌でしたが、今は100%拒否ということではありません。今年1月、10年ぶりにハーフマラソンを走って思ったのです。走り終わったとき、こんなにも気持ちに余裕を持てるものなのかと。私はすごく緊張するタイプなので、スタートラインに立つまで逃げることしか考えていないのです」

 ――本当ですか?

「泣きそうな顔をしていれば、君は棄権した方がいいと言われるんじゃないかと。誰かが止めてくれるかもと、いつも期待しているんです」

 ――確かにスタート前に気弱そうな表情をしてますね。

「走り出したら、最後まで走り切りたいですし、自分でやめますとは言えません。だから、人に言って欲しい(笑い)。それぐらい緊張するんです。でも、ハーフマラソンは距離が長いので、スタートでそこまでは緊張しません。私にとってスタートの緊張度は走る距離によることがわかったのです。7月にホクレンで、久々に1500メートルを走りましたが、5000メートルや1万メートルとはスタートが全然違う。ワンテンポ遅れたら、もう終わりみたいな。100メートルなんてスタートで決まってしまう、究極のレースです」

 ――マラソンは腕時計を見ながらスタートできるし、転んだって勝てる人もいますからね。

「そうです。マラソンは走る距離はとても長いのできついですが、リラックスしてスタートできる点は羨ましいです。そんな考えもあって、マラソンを100%拒否するつもりはありません。先のことはわかりませんが」 =つづく

(聞き手=塙雄一/日刊ゲンダイ)

▼にいや・ひとみ 1988年2月26日、岡山県出身。興譲館高では3年連続全国駅伝出場。3年連続1区の区間賞獲得。2005年全国優勝。同年全国都道府県対抗女子駅伝1区区間賞、インターハイ3000メートル優勝、世界ユース3000メートル銅。07年東京マラソン優勝。12年ロンドン五輪5000メートル、1万メートル代表。11年世界陸上テグ大会5000メートル13位、13年モスクワ大会1万メートル5位、19年ドーハ大会1万メートル11位。

 右足故障悪化で14年1月引退、18年現役復帰。19年全国都道府県対抗女子駅伝の東京アンカー(9区)として7人抜きで区間賞。20年同大会も9区同賞。1月米ヒューストンのハーフマラソンで1時間6分38秒の日本新記録樹立。東京五輪5000メートル、1万メートル参加標準記録突破。積水化学所属。166センチ、43キロ。

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