五里霧中の東京五輪 カギ握るのは次期IOC会長候補のコー氏

五里霧中の東京五輪 カギ握るのは次期IOC会長候補のコー氏

武田薫【スポーツ時々放談】

 2007年8月に大阪で開かれた世界陸上選手権は蒸し暑く、メディア対応の役員が次々と倒れた。

 会場の長居スタジアム前の回転寿司店に逃げ込むと、カウンターに見覚えのある外国人が座っていた。スティーブ・オベット、モスクワ五輪800メートルの金メダリストで、英国を代表する中距離の英雄。寿司屋の店主によれば「よう来はるお客さんですわ」とすっかり常連で、陸上マニアと写真に納まり「安くてうまい」と上機嫌だった。

 80年代、オベットと世界記録を交互に塗り替えた宿敵が、同じ英国のセバスチャン・コーだ。モスクワの800メートルに続く1500メートルでは、コーがオベットに勝った……2人の対決がボイコットでしらけた大会を熱く盛り上げた。

 開けっ広げで辛辣なオベットに対し、コーはインテリ然とした風貌で控えめ。引退後は国会議員を務めてバロン(男爵)ももらい、ロンドンオリンピック組織委員長から15年に世界陸連(WA)会長に就任している。

 東京オリンピック2020の開催の延期が決まった。コロナの前に来年のことなど何も分からないが、カギを握るのはセバスチャン・コーだ。

■「世陸を22年に」

 IOC会長のトーマス・バッハが「中止も順延も言っていない」と発言したのが3月5日。19日、コーが秋に延期を示唆して流れが変わった。22日、IOCが「4週間以内に結論」と発表し、カナダと豪州が選手派遣拒否を表明。するとコーは「誰も今年は望んでいない」と発声し、24日の英国紙で「世界陸上の1年延期は可能」とさらに踏み込んだ。

 オリンピックを1年延期する場合、米国オレゴン州で開催される世界陸上との競合が問題になっていた。

 このコーの言葉を待っていたかのように同夜、安倍総理ら一同がバッハに電話会談で「1年程度」の延期を申し入れ、コーは27日、「世陸を22年に延ばしてもいい」とフォローしている。セバスチャン・コーは世界陸連会長でありIOCの調整委員会委員でもあるが、別の顔もある。

 長年ナイキ社の特別顧問を務め、WA会長就任に伴い辞任したが、その後の17年、ナイキは本部ビルをセバスチャン・コー・ビルディングと命名。同社本部は世陸の開催地オレゴンで、そこは今、大流行の厚底シューズの拠点でもある。

 WAは厚底による記録続出に介入し、結局は40ミリ以内という条件で認めた。それから1カ月もしないうちにナイキは39・5ミリの新製品を発表している。

 こうした流れを最も警戒しているのが、長年、オリンピックのスポンサーを務めてきたドイツのアディダス社だ。バッハ会長はドイツ人、法律家、アディダス出身。そしてセバスチャン・コーは5年後の次期IOC会長と目されている。

■伝統的マイラー

 コロナ感染が解決しない今、いくら「順延」「開催」と叫んでも何も分からないパンデミックだ。ただ一つ言えることがある。

 コー会長は世界陸連のダイヤモンドリーグから5000、1万メートルを外した、長距離、マラソンに興味がない英国の伝統的マイラーなのだ。

 改めてマラソンの代表選考はしないと言う日本陸連にはカエルの面に小便でも、選手は頭に入れておいた方がいい。またマラソンの札幌移転のようなことが起きる。

(武田薫/スポーツライター)

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