パラパワーリフティング樋口健太郎挑む逆転東京五輪

引用元:日刊スポーツ
パラパワーリフティング樋口健太郎挑む逆転東京五輪

パラパワーリフティング男子72キロ級の樋口健太郎(47=フリー)が、残された2回のチャンスにかける。交通事故で17年10月に右脚を切断してから競技を始め、現在は175キロの日本記録保持者。東京パラリンピック出場を争うランキングは11位で、内定の8位以内浮上へ2月、4月のワールドカップ(W杯)2大会に挑む。小学校の理科講師を務めながら短期間で記録を伸ばし、4月には競技研究のために日体大大学院に入学する樋口に聞いた。【取材・構成=小堀泰男】

【写真】笑顔でポーズを決めるパラパワーリフティング樋口

■「あとは精度」

2年ほどのキャリアで39キロも記録を伸ばしている。17年12月に初出場の全日本を136キロで制し、その後は日本記録を更新し続けて昨年9月には175キロに成功した。

「でも、この1年は全然あがっていない。自分が弱いからです。重量はあげられるが、試技として成功していない。この競技はパワーではなく技術。練習でできることを試合でしっかりやれるかどうか。力は必要ないんです」

東京パラリンピック出場を争うランキングは11位。4月23日の時点で8位以内に入らなければならない。圏内まで29日の時点であと6キロ。今後出場予定の大会は2月に英国、4月にUAEで開催されるW杯の2大会だ。

「このチャンスを逃したくない。4年後も…なんて思っていたら一生出られないでしょう。絶対に出場圏にランクを上げたい。重さ的には問題はない。あとは精度なんです。(審判が成功を示す)白ランプ3つが理想ですが、今は2つでもいい」

事故は17年9月24日だった。オートバイで関越道を東京方面へ走行中、右後方から車に衝突された。3度の手術の末に右脚を大腿(だいたい)部から切断し、義足生活になった。

「祖母の墓参りの帰りでした。右脚はボロボロだったけど、それ以外、頭にも体にもキズひとつなかった。脚を切った後はすごく痛かったけど、ショックはなかったですね。逆に視野が広がって、今は楽しいことの方が多いぐらいです」

高校在学中からスポーツトレーナーとしての経験を積んでいたが、競技者として国体出場などを模索していた時期だった。

「競技は決めていなかったけど、体は鍛えていたので選手として結果を残してみたかった。だからケガをきっかけにパラスポーツに関わろうと思い、東京パラリンピックを目指せることになった。本を読み、体験会に参加して、パラパワーが一番自分に近いと思い、東京に絶対間に合わせようと、入院中に焦って全日本に出たんです」

現在は小学校の理科講師として週に24コマの授業を持つ。それでも朝4時起床でトレーニングをこなし、夜も練習を欠かさない。週末には個人コーチのいる大阪に出向き、週に1度は陸上クラブの短距離練習にも参加する。さらに4月には日体大大学院入学も決まった。

「切断や車いすなど障がいの違いでどんなフォームがいいのかをスポーツ科学の動作解析で研究したい。陸上部にも入部します。陸上で自分がどこまで行けるのか試してみたいので」

■教科書で紹介

障がいを負っても前を向き続ける生きざまと競技実績が評価され、21年度には保健体育の教科書に取り上げられることも内定。障がい者やパラスポーツへの理解を深めるため、真冬も短パン姿で義足を隠さない。そんな47歳の男の挑戦がクライマックスを迎える。

◆樋口健太郎(ひぐち・けんたろう)1972年(昭47)12月9日、東京都港区生まれ。八王子市立恩方中、都立片倉高時代は卓球部。東京理大理学部化学科卒。高校在学中からスポーツトレーナーとして活動を始め、プロアスリートの指導歴もある。17年9月に交通事故で右脚を大腿部から切断し、義足を使用する。趣味はオートバイで日本製のクラシックモデルなど約40台を保有している。現在は東京都荒川区立ひぐらし小の理科講師。家族は夫人と2女。身長164センチ。

<パラパワーリフティング>

▼ベンチプレス 下肢障がい者を対象にしたベンチプレス競技で64年の東京パラリンピックから採用された。障がいの程度によるクラス分けはなく、体重別に男子は49キロ級~107キロ超級、女子は41キロ級~86キロ超級の各10階級。低身長選手の出場も認められている。

▼試技3回 選手は1回の試技で1回だけバーベルをあげ、希望する重量に3回挑むことができる。バーベルをあげても3人の審判のうち2人以上に認められなければ失敗。判定のポイントは試技中の姿勢、バーベルの胸前での止めや左右のバランスなど。審判は試技の正否を白(成功)と赤(失敗)のランプで示す。

▼特別試技 3回の試技のうち成功した一番重い重量が大会の記録になるが、新記録を狙う目的で特別試技(第4試技)が認められる場合がある。それに成功しても大会の記録、順位には反映されず、新記録としてのみ認定される。

▼東京出場は 国際パラリンピック委員会(IPC)指定大会に出場し、出場標準記録を突破していることが最低条件。その上で4月までのIPC指定大会の成績による東京パラランキングで男女各階級8位以内に入れば出場が内定。それ以外に男女合わせて20人の推薦枠がある。

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