高橋尚子さんインタビュー「選手の思い、ものすごく出る」 富士山女子駅伝、30日号砲

引用元:産経新聞
高橋尚子さんインタビュー「選手の思い、ものすごく出る」 富士山女子駅伝、30日号砲

 名城大が2連覇を果たすか。それとも他のチームが待ったを掛けるか-。7回目となる富士山女子駅伝(富士山本宮浅間大社前発~富士総合運動公園競技場着、7区間43・4キロ=産経新聞社など後援)が30日、号砲を迎える。出場するのは全日本大学選抜、静岡県学生選抜を含めた24チーム。大学女子駅伝の裾野の広がりを受け、単独の大学チームが昨年の20から22に増えた。テレビ解説者の立場で長年、富士山女子駅伝を見守ってきた2000年シドニー五輪女子マラソン金メダリストの高橋尚子さんに学生ランナーや大会への期待を聞いた。

【写真でみる】シドニー五輪で金メダルを獲得した高橋尚子さん

 --富士山女子駅伝にどんな印象を持っていますか

 「今や年末の風物詩になっているのではないかと思います。富士山女子駅伝から始まって、1月1日のニューイヤー駅伝(全日本実業団対抗駅伝)、2~3日の箱根駅伝と多くの方々が年末年始の駅伝を楽しみにしてくれています。選手にとっては、その年最後の力を出し切る大会ですよね。最上級生とたすきをつなぐ最後の機会にもなるので、選手の思いがものすごく出る大会だと思います」

 「7区間あるので選手層の厚さやチームの地力が試されます。最後の上りも含めて適材適所で区間配置し、選手の個性を生かすことができる。そういった意味で選手1人1人の胸に響くレースになっているのではないでしょうか。富士山に向かっていくんだから簡単な訳は絶対にないんです。でも、目指すところがブレない。みんなまだ若い大学生ですけど、その先にしっかり『日本一』という目標を見据えられる最高のシチュエーションではないかなと思いますね。日本一、夢に向かって突き進む。そんな大会ですね」

 --選手たちをどう見ていますか

 「高校時代は無名でも大学駅伝で力をつけて羽ばたいていく選手はたくさんいます。1人だと力が出ないものが、たすきを渡して、みんなの思いをつないでいくからこそ飛躍して開花していく。その必死に走る姿は、見ている側にも『私たちにもこんな時代があったな』と改めて思い出させてくれます。そして、笑顔あり、涙ありというのが選手たちをすごく成長させていますよね。うまくいったことだけが経験ではなく、悔しさがあって、卒業後に飛躍して日本代表になる選手もいますから」

 --沿道の応援も多いです

 「すごいですよ! この駅伝を歓迎して、楽しみにしていただいているのが本当に伝わります。最後の上りは応援の波が選手の背中をものすごく押してくれています。私は中継車に乗っているので、その声が非常に近く聞こえるんです。選手の呼吸音が消されるくらいの大きな声援。選手たちが羨(うらや)ましいですし、本当に幸せだなと思いますね」

 --高橋さんはどんな大学時代を過ごしていましたか

 「駅伝を中心に1年間が回っているぐらい、個人よりも駅伝での結果を求めいていたかな、と。学生の駅伝に懸ける思いは今も昔も変わりません。走ることの楽しさが根付いたのも大学時代かな。その思いを現役時代の最後まで貫き通せたので、(社会人になって)小出義雄監督の(豊富な)練習量にも耐えられたのかなと思いますね」

 --昨年来、若い選手の鉄剤注射の問題が取り上げられています

 「日頃から自分の体と向き合う大切さを知ってもらいたいと思いますね。特に若い時に鉄剤に頼ってしまう怖さ、体が成長する段階における負の影響は計り知れません。長い目で見て、“強さ”を作っていく重要性を知ってもらいたい。体づくり、食事、休養などのバランスを考えていくことが飛躍の一歩になります。私は今もレバー、ひじき、納豆をなるべく毎日、朝夕に取るようにしていますよ」

 「体の小さな変化を自分で感じ取ることがけがを防ぐ能力や、スパートを仕掛けるきっかけを察知する力につながったり、頭と体を結ぶ運動神経につながったり、すべてに役立つと思うんです。特に大学時代は勉強しながら人間力を鍛えていく時期でもあるので、周囲が応援したくなる人間力も向上させてもらいたいなと思いますね」

 --大学卒業後は「走ること」とどう付き合ったらいいと思いますか

 「どんな道に進んでも大学駅伝の中で培ったことは、その後の人生を大きく照らしてくれます。『苦しかったこともできたんだから』と自信になったり、たくさんの選手や監督、スタッフとの絆が困ったときに支えになってくれたりすると思うんです。駅伝を通じて学んだルールや秩序、仲間への思いなども社会に出て力になるはずです」

 「もちろん、これから、さらに上を目指して実業団に進む選手もたくさんいると思います。学生時代だからこそ感じた陸上の楽しさ、築くことのできた精神的な土台といった原点を見失わず、大切にしてもらいたいです。ここからが皆さんの人生の始まりですよ。私は大学駅伝で一度も区間賞を取ったこともなければ、インカレで1番を取ることもできませんでした。2番、3番はあったけど、必ずトップを取る選手ではなかったんです。皆さんの可能性は無限に広がっているんだと伝えたいですね」

 --近年の日本のランニング界に対して感じていることは

 「私たちの時代はマラソンは『忍耐』『根性』というイメージが強くありました。でも今や走る女性は『美しい』『カッコいい』『自己管理ができる』と、すごくポジティブなイメージに変わってきています。ユニホームも華やかになってますよね。また、楽しんで走れる市民マラソン大会もたくさんできたことによって、走ることがすごく身近になってきたのかなと感じます」

 「トップレベルの選手を見ることによって、世間の走ることへの関心も格段に上がっていると思います。今ちょっと日本は世界から置いていかれていますけど、活躍する選手が出てくれば、ヒロインになれるチャンスなので、この状況を味方につけてもらいたいなと思いますね。東京五輪・パラリンピックに向けて、選手が高い意識を持って競技に熱中できることはすごく大きな変化で、五輪の財産がすでにできているのかなと。今回は東京五輪前、最後の富士山女子駅伝なので、どんな選手が輝くのか、多くの方に見届けてもらいたいなと思います」

 --今後、富士山女子駅伝に期待することは

 「全国の皆さんが『これを見ないと年が終われない』というぐらいの一層の深い根付き方を期待します。若い女の子たちが頑張っている姿を見て活力や元気をもらったりする部分も大きいと思います。面白い試合が繰り広げられれば期待度も上がるでしょう。選手たちの懸ける思いがまた次に繋がる、そんな走りに期待したいと思います」

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 2連覇を狙う名城大は戦力が充実している。10月の全日本大学女子駅伝(仙台市)は全6区間中、2区・高松智美ムセンビ(2年)、4区・山本有真(1年)、5区・加世田梨花(3年)で区間賞を奪い、優勝を飾った。山本はルーキーながら日本学生対校選手権でも1500メートル3位、5000メートル5位と力がある。

 大東大は前回、最長5区(10・5キロ)で区間賞の関谷夏希(4年)が柱。同じく7区で区間新をマークした鈴木優花(2年)にも注目したい。立命大は日本学生対校5000メートル、1万メートルで2冠を達成した佐藤成葉(4年)がチームを牽引(けんいん)する。前回、全日本大学選抜で出場し、2区区間新の中大の五島莉乃(4年)も楽しみだ。

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